DXレポートをご存じでしょうか?
経済産業省が、2018年9月に公表した「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」のことです。我が国企業がデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)を加速するため、DX推進ガイドラインやDX推進指標を公開し、2025 年までにレガシー刷新に計画的に取り組むことの必要性とデジタル技術を前提とした企業経営の変革の方向性を指摘しています。
DXレポートから2年が経過。2020年12月28日に、日本企業のDX進展状況やコロナ禍で見られた事象もまとめた「DXレポート2(中間取りまとめ)」が公表されました。
ちなみに、DXの定義は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」こととしています(2019 年 7 月「DX 推進指標とそのガイダンス」参照)。
ここでは、DXレポート2(本文)を読みながら、ポイントとなりそうなものをピックアップしましたので、共有します。
DX の現状認識とコロナ禍で表出したこと
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が企業の自己診断結果をまとめた結果、実に全体の9割以上の企業が DX にまったく取り組めていない(DX 未着手企業)レベルか、散発的な実施に留まっている(DX 途上企業)状況であることが明らかになった。(P.7)
- 先般のDXレポートでは、「DX=レガシーシステム刷新」など、本質ではない解釈を生んでしまった。「現時点で競争優位性が確保できていればこれ以上のDXは不要である」という受け止めもあった。(P.11)
- DX の本質とは、単にレガシーなシステムを刷新する、高度化するといったことにとどまるのではなく、事業環境の変化に迅速に適応する能力を身につけること、そしてその中で企業文化(固定観念)を変革(レガシー企業文化からの脱却)することにある。(P.11-12)
- コロナ禍で人々の固定観念が変化している今こそ、「2025 年の崖」問題の対処に向けて、企業文化を変革するある意味絶好(最後)の機会である。(P.12)
デジタル企業の姿と産業の変革
企業の目指すべき方向性
- ビジネスにおける価値創出の源泉はデジタルの領域に移行しつつあり、この流れはコロナ禍が終息した後も元には戻らないと考えられる。(P.14)
- 企業は顧客・社会の課題を解決するための仮説となるプロダクトやサービスを繰り返し市場に提示し、データに基づいて顧客・社会の反応を把握しながら、迅速にプロダクトやサービス、あるいはその提供体制にフィードバックし続ける必要がある。(P.14)
顧客や社会の課題の変化にあわせて、柔軟かつ迅速に変化し続ける能力を身につけることが大切と言っています。
ベンダー企業の目指すべき方向性
- これまで多くのベンダー企業は、ユーザー企業が持つ IT システムを個別に開発・納入する受託開発型のビジネスを展開してきた。(P.15)
- デジタル社会においては、ベンダー企業とユーザー企業は共に、高収益な領域で利益率の高いビジネスへと DX を推進していく必要がある。そのために、現行ビジネスの維持・運営(ラン・ザ・ビジネス)から脱却する覚悟を持ち、価値創造型のビジネスを行うという方向性に舵を切るべきである。(…中略…)顧客や社会の課題を正確にとらえるために、ベンダー企業はユーザー企業と DX を一体的に推進する共創的パートナーとなっていくことが求められる。(P.15)
- 今後の新たなベンダー企業像としての形態を表すとすれば、主に以下の4つが考えられる。(P.16)
- ユーザー企業の変革を共に推進するパートナー
- DX に必要な技術・ノウハウの提供主体
- 協調領域における共通プラットフォーム提供主体
- 新ビジネス・サービスの提供主体
企業の経営・戦略の変革の方向性
直ちに取り組むべきアクション
- 急速な事業環境の変化に対し、最も迅速な対処策として市販製品・サービスの活用による迅速な対応を検討すべきである。(P.17)
- 業務をオンラインで実施できる ITインフラの導入。
- 業務プロセスのデジタル化。
- 従業員の安全・健康管理のデジタル化。
- 顧客接点のデジタル化。
- 一方で、こうしたツール導入が完了したからといって DX が達成されるわけではないことにも十分に留意する必要があり、後述する短期的、中長期的対応の取組へと発展させるべきである。(P.17)
DX推進に向けた短期的対応
- DX の推進にあたっては、経営層、事業部門、IT 部門が協働してビジネス変革に向けたコンセプトを描いていく必要がある。(中略)すなわち、DX を推進する関係者の間で基礎的な共通理解を初めに形成することが必要である。(P.19)
- 企業が DX を進めるにあたり、製品・サービスを短期間で市場に投入するスピードが重要であり、スピードを確保するためには必然的にシステムは「作る」よりは、他社を含めた既存のサービス等を「使う」、「つなげる」ことにより迅速に価値創出する発想が必要となる。(P.20)
- コロナ禍以前の「人が作業することを前提とした業務プロセス」を、デジタルを前提とし、かつ顧客起点で見直しを行うことにより大幅な生産性向上や新たな価値創造が期待できる。(P.21)
- 業務プロセスが顧客への価値創出に寄与しているか否かという視点をもち、恒常的な見直しが求められる。(P.21)
DX推進に向けた中長期的対応
- 企業は、今後のシステムの利用に際し、自社の強みとは関係の薄い協調領域とビジネスの強みである競争領域を識別するとともに、協調領域における IT 投資を効率化・抑制し、生み出した投資余力を競争領域へと割り当てていくことが必要である。(P.21)
- 企業は、協調領域については自前主義を排し、経営トップのリーダーシップの下、業務プロセスの標準化を進めることで SaaS、パッケージソフトウェアを活用し、貴重な IT 投資の予算や従事する人材の投入を抑制すべきである。(P.22)
- さらに、IT 投資の効果を高めるために、業界内の他社と協調領域を形成して共通プラットフォーム化することも検討すべきである。(P.22)
- 競争領域を担うシステムの構築においては、仮説・検証を俊敏に実施するため、大規模なソフトウェア開発を一括発注し長期間をかけて開発するのではなく、アジャイルな開発体制を社内に構築し、市場の変化をとらえながら小規模な開発を繰り返すべきである。(P.23)
このような動きを実現するにも、自社内の人材だけでは難しい。だから、変革に向けて対等な立場で活動し、必要な技術・ノウハウを提供してくれる企業とのパートナーシップを構築することが重要になるのでしょう。
- 今後、ユーザー企業において DX が進展すると、受託開発の開発規模や案件数が減少するとともに、アジャイル開発による内製が主流になると考えられる。(P.25)
- ベンダー企業はこうした事業機会を顧客企業への客先常駐ビジネスとするのではなく、対等なパートナーシップを体現できる拠点において、ユーザー企業とアジャイルの考え方を共有しながらチームの能力を育て(共育)、内製開発を協力して実践する(共創)べきである。(P.25)
ベンダー企業も変革していくことが重要です。
DX人材の確保
- DX を推進するには、構想力を持ち、明確なビジョンを描き、自ら組織をけん引し、また実行することができるような人材が必要となる。このため、DX を推進するために必要となる人材については(外部のベンダー企業に任せるのではなく)企業が自ら確保するべきである。(P.27)
- 常に新しい技術に敏感になり、学び続けるマインドセットを持つことができるよう、専門性を評価する仕組みや、リカレント学習の仕組みを導入すべきである。(P.27)
政府の政策の方向性
- 政府は、企業がレガシーカルチャーから脱却して個社の DX を確実に前進させるため、DX に関する共通理解の形成や DX 戦略の立案の支援といった「事業変革の環境整備」の支援に踏み込む必要がある。(P.28)
- 個社のみでは対応しきれない顧客・社会課題を迅速に解決するためには、個社の垣根を越えた協調領域のプラットフォーム形成の支援や、デジタル市場の将来像を見据えた産業構造の再設計といった「デジタル社会基盤の形成」を促すべきと考える。(P.28)
以下は、政府の政策の方向性です。
事業変革の環境整備
■DX の認知・理解向上に向けた施策
- デジタル化を行うきっかけとなるツールとして、事事例集作成。
■DX推進体制の整備
- DX の停滞要因は、各関係者間での対話不足に起因しているのではないかと考えられる。DX の加速には経営層のマインドが重要であり、それらを社内外に発信・伝達するための対話が不可欠である。関係者間での対話の中身の勘所を示すにあたり、企業が抱える課題(Why、What、How)それぞれの「分からない」を「分かる」にするための意識向上施策として、経営層向けに対話の中身をとりまとめた「ポイント集」を整理する。(P.29)
- DX 推進を経営レベルで推進できるようにするためには、CDO(Chief Digital Officer) や CIO(Chief Information Officer) の役割を明確にする必要がある。(…中略…)DX をけん引する経営層の機能として、こうした CxO が担うべき役割や、ガバナンスの 対象事項について再定義を行うこととする。(P.31)
- DX の具体的な取組領域や、成功事例をパターン化し、企業において具体的なアクションを検討する際の手がかりとなる「DX 成功パターン」を策定する。DX 成功パターンには、DX に向けた戦略の立案・展開にあたって前提となる「組織戦略」と「事業戦略」、「推進戦略」が含まれる。(P.33)
- 組織戦略:経営者・IT 部門・業務部門が協調して推進する。三位一体の対話によって共通認識を形成すべきである。
- 事業戦略:既存事業の効率化と新事業の創出は両輪で検討すべきである。
- 推進戦略:重点部門を見極め、小さく始めて、段階的に全社的な取組みに広げることを検討すべきである。
- 企業が DX の具体的なアクションを組織の成熟度ごとに設計できるように、DXをデジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションという 3 つの異なる段階に分解する。(P.34)
- デジタイゼーション: アナログ・物理データの単純なデジタルデータ化のことであり、典型的には、紙文書の電子化である。
- デジタライゼーション: 個別業務・プロセスのデジタル化である。
- デジタルトランスフォーメーション: 全社的な業務・プロセスのデジタル化、および顧客起点の価値創造のために事業やビジネスモデルを変革することである。
上記のDXの構造は、インダストリー4.0等の定義と同一であり、世界的な共通認識とのことです。そして「未着手→デジタイゼーション→デジタライゼーション→デジタルトランスフォーメーション」と進んでいきます。
■DX推進状況の把握
- 既存の IT システムに関する技術的負債や DX 対応度合いを可視化し、対策が必要なシステムを特定するための指標として、プラットフォームデジタル化指標を策定する。(P.36)
デジタル社会基盤の形成
- 企業が経営資源を競争領域に集中するためには、個社が別々に ITシステムを開発するのではなく、業界内の他社と協調領域を合意形成して共通プラットフォームを構築し、協調領域に対するリソースの投入を最小限にすべきである。(…中略…)特に、共通プラットフォームを中心としたエ コシステムの構築を最終的なゴールとするには、その中立性の担保が重要となるため、公的機関の役割も重要になると考える。(P.37)
- 関係者間での協調領域を合意形成するために議論の場を提供し、共通プラットフォーム開発に要する支援や、政府機関によるサービス運用、セキュリティやデータ利活用等に関する運用指針の策定を検討していく。(P.37)
- 異なる事業者間や社会全体でのデータや IT システムの連携を容易にするために、2020 年5 月、情報処理推進機構にデジタルアーキテクチャ・デザインセンターを設立し、産学官の連携の下で、全体の見取り図である「アーキテクチャ」を設計するとともに、その設計を主導できる専門家の育成を進めている。(P.38)
産業変革の制度的支援
- これまで政府は中小企業のデジタル化推進施策として、ものづくり補助金と IT 導入補助金に加え、中小企業デジタル化応援隊や地方版 IoT 推進ラボ、IT コーディネータの普及等を展開してきた。(P.39)
- 産業変革のさらなる加速に向けては、ユーザー企業の DX を起点としてベンダー企業の事業構造の変革を促すべきである。(…中略…)政府としては、ベンダー企業の競争力を定量的または定性的に計測できる指標を策定する。その上で、従来型ビジネスモデルからの変化を阻害する要因を明確化し、今後の議論で政府としての具体的な方策について検討する。(P.39-40)
おそらくですが、ベンダー企業も明日の収益を考えないといけないので、まずはユーザー企業の意識から変わらないといけないのでしょうね。そのように変わっていくという予測の下、ベンダー企業は準備を進めておく、という感じでしょうか。
人材変革
- 産業界における DX を進めるためには、各企業において社内の DX 活動をけん引する DX人材の存在が不可欠である。「DX 人材」とは、自社のビジネスを深く理解した上で、データとデジタル技術を活用してそれをどう改革していくかについての構想力を持ち、実現に向けた明確なビジョンを描くことができる人材を指す。(P.41)
- デジタル技術の進歩や、それに伴う社会の変化が加速する中、IT 人材不足に応えるような人材の育成・確保を実現するためには、個々人が変化に対して自ら学べるように、社会全体として学び直し(リカレント教育)の仕組みを整備していくことが重要である。(…中略…)リスキリングの場の提供と、デジタル人材市場における必要な人材の確保 に向け、人材のスキルを見える化し、マッチングを可能とする仕組みについても検討を進める。(P.43)
一人で「ビジネス」と「デジタル技術」の両方を理解し、なおかつ構想力を持ちビジョンを描けるというスーパーマンはなかなか少ないように思います。意識の高い人はいて自分で勉強していくでしょうが、多くの人は務めている会社の評価制度に影響を受ける。人材のN数を増やすには、企業においても「専門性を評価」する仕組みをきっちり作り、そのような人が育っていく環境作りを進めることが大切なのだと思います。
DX 実現シナリオで目指す産業構造変革
- ユーザー企業が技術的負債の解消と本格的な DX の実現に向けて、協調領域のクラウド・共通プラットフォーム活用や競争領域の内製化を進めることなどにより、企業のバリューアップに資する IT 投資や経営の俊敏さが向上し、ユーザー企業で活躍する IT 人材が増加することが期待される。(P.46)
- ベンダー企業は受託型開発からサービス提供型等の高付加価値ビジネスへ移行することが求められる。(P.46)
- デジタル技術が生活のあらゆる面に作用し、影響を与える変化が加速する現在、データをいかに有効活用して新しい価値を創出するか、その基盤となるIoT(Internet of Things)の活用、CPS(Cyber Physical System)の構築、さらにビッグデータを管理できるクラウドコンピューティングの活用等が課題となる。(P.47)
- 既存システムは長年の仕様追加・変更や開発担当の変更等により、システムが複雑化したり、ブラックボックス化したりすることにより、技術的負債化しつつある。技術的負債は、運用保守コストの増大や、新機能を追加する際の妨げとなり、デジタルトランスフォーメーションを阻害する要因となることが懸念される。(P.47)
おわりに
要約と言いながら、えらく長くなってしまいました。読み応えありました。
DXの話は、総論賛成・各論反対みたいな話が多いように思います。トップは重要性を理解して「やらないとなぁ」と思っている。社員にもそう思っている人はたくさんいる。ITやシステム関係のとりまとめ部署は指示を受け、いざやろうとすると、実は業務プロセスが変わってしまうので各部署が抵抗する。そして頓挫する。
これが今までのパターンだったと思います。しかし、幸か不幸かコロナ禍のため、今は業務のやり方を変えることに抵抗がない。新しい仕事のやり方に変えていくチャンスであるというのは、納得がいきます。
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